「再生治療」と聞いても、
実際にどんなことをするのか、イメージしにくいですよね。
ひとくちに歯周病の再生治療といっても、方法は1つではありません。骨の失われ方や歯ぐきの状態に合わせて、シンプルな方法から、いくつかを組み合わせた高度な方法までを使い分けます。
この記事では、再生治療にはどんな方法(術式)があるのかを、やさしい言葉で、シンプルな方法から順にご紹介します。「自分の歯にはどんな方法が向いているのだろう」と考えるヒントにしていただければと思います。
再生治療でいちばん大切なのは、「一番すごい方法」を選ぶことではありません。
その歯の状態に、一番合った方法を選ぶことです。難しい形の歯には方法を組み合わせ、シンプルな歯には負担の少ない方法を——その見極めこそが、専門医の仕事だと考えています。
※ 本記事は、日本歯周病学会 歯周病専門医の監修のもと、米国歯周病学会(AAP)・欧州歯周病連盟(EFP)のガイドラインおよび学術論文を参考に作成しています。
目次
- 再生治療は「1つの方法」ではありません
- お薬・材料を単体で使う(基本の方法)
- 骨補填材を組み合わせる
- メンブレン(膜)を組み合わせる(GTR法)
- 歯ぐきの移植(CTG)まで組み合わせる応用法
- どの方法が選ばれるかは「骨の形」で決まる
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
1. 再生治療は「1つの方法」ではありません
再生治療を理解するうえで、まず知っておいていただきたい考え方があります。それは、「再生する場所(スペース)を、どう確保して、どう安定させるか」という視点です。
骨がうまく再生するには、「治るためのスペース」と「傷口の安定」が必要です。
骨の壁がしっかり残っている歯なら、スペースは保ちやすく、シンプルな方法で十分なことがあります。反対に、骨の壁が少ない・欠損が広い歯ほど、スペースがつぶれやすいため、材料を足したり、方法を組み合わせたりして工夫していきます。
実際、多くの研究をまとめた分析でも、状態によっては複数の方法を組み合わせたほうが良い結果につながりやすいと報告されています(Stavropoulos ら, 2021年)。
では、シンプルな方法から順に見ていきましょう。
2. お薬・材料を単体で使う(基本の方法)
骨の壁が比較的多く残っている、条件のよい欠損に向く、いちばん基本的な方法です。歯ぐきを開いて中をきれいにしたあと、再生を促すお薬や材料を使います。よく使われるのが、次の2つです。
エムドゲイン®(豚由来のタンパク質)

エムドゲイン®の主成分は、歯が最初につくられるときに働くタンパク質(エナメルマトリックスタンパク質)です。この成分は、豚(ブタ)の歯の芽(歯胚)から抽出・精製して作られています。
歯が生まれる瞬間の環境を再現することで、歯を支える組織(セメント質・歯根膜・骨)が再生しやすい状態へ導きます。世界的に長く使われ、AAPの報告でも有効性が評価されています(自費診療)。
※ 豚由来の成分のため、宗教上・アレルギー上の配慮が必要な場合は、事前にご相談ください。
リグロス®(bFGF=線維芽細胞増殖因子の製剤)

リグロス®の有効成分は「トラフェルミン」といい、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)という成長因子です。これは、細胞の増殖や新しい血管づくりを促し、体が傷を治すときに働くしくみを応用したものです。
エムドゲイン®が動物由来なのに対し、リグロス®は遺伝子組換え技術で人工的に作られた製剤です。動物やヒトの組織から取り出すのではなく、工業的に安定して製造されます。
実はこの成分は、歯科より前から、皮膚のやけどや床ずれ(褥瘡)などの傷を治す薬(フィブラストスプレー®)として、皮膚科・外科の領域で使われてきました。その「傷を治す力」を、歯周組織の再生に応用したのがリグロス®です。日本で開発され、条件を満たせば健康保険が使えます。
AAPのまとめでも、これらの材料は、後述する骨補填材やGTR法と同等の効果があり、歯ぐきを開いて清掃するだけの治療よりも良好とされています(Kao ら, 2015年)。
3. 骨補填材を組み合わせる
欠損がやや広く、そのままでは再生のスペースがつぶれてしまいやすい場合に用います。
骨のもとになる粒状の材料(骨補填材)を入れることで、再生する場所を保ち、新しい骨が育つ“足場”をつくります。
基本のお薬・材料と組み合わせて使うことも多く、「スペースを保ちにくい欠損」への対応力が高まります。

4. メンブレン(膜)を組み合わせる(GTR法)
歯ぐきは、骨や歯根膜よりも治りが早いという性質があります。そのため、何もしないと、治りの早い歯ぐきの細胞が骨の欠損の中に入り込んでしまい、骨や歯根膜が育つスペースが奪われてしまうことがあります。
そこで、「メンブレン」という膜でフタをして、骨や歯根膜がゆっくり育つための場所と時間を確保します。これをGTR法(組織再生誘導法)と呼びます。
骨補填材とメンブレンを組み合わせるなど、欠損の形に応じて使い分けます。より難しい欠損に用いる方法です。
5. 歯ぐきの移植(CTG)まで組み合わせる応用法
骨の壁がほとんど残っていない欠損や、歯ぐきが下がってしまっているケースは、これまでの方法だけでは再生のスペースを保ちにくいことがあります。
そうした難しいケースで近年報告されているのが、ご自身のお口の中から採取した歯ぐきの組織(結合組織/CTG)を“かべ”として利用する方法です。
この方法には、次のような利点が期待されています。
- くずれやすい再生のスペースを安定させる
- 下がった歯ぐきの見た目や厚みも同時に改善できることがある
難症例に対して選択肢を広げてくれる、応用的なアプローチです(Santoro・Zucchelli ら, 2016年 ほか)。
※ この方法は、現時点では症例報告を中心に報告されている新しい応用法です。すべての方に適応となるものではなく、状態に応じて検討します。
6. どの方法が選ばれるかは「骨の形」で決まる
ここまで4つの方法をご紹介しましたが、「複雑な方法ほど優れている」というわけではありません。
大切なのは「一番すごい方法」ではなく、その歯に「一番合った方法」を選ぶことです。
どの方法が向くかは、骨の失われ方の形によって変わります。そのため、まずは精密な検査(レントゲンや、必要に応じてCT)で骨の形を立体的に確認することが欠かせません。
難しい形の欠損ほど、方法を組み合わせる判断や、繊細な手術の技術が必要になります。当院では、必要に応じてマイクロスコープを用いた精密な処置で対応しています。
7. よくある質問(Q&A)
Q. 方法によって、痛みや腫れは変わりますか?
A. 一般に、組み合わせる材料が増え、手術範囲が広くなるほど、術後の反応もやや大きくなる傾向があります。ただし個人差が大きく、多くは痛み止めなどで対応できます。
Q. 保険は使えますか?
A. リグロス®を用いる再生治療は、一定の条件を満たせば保険が使えます。エムドゲイン®やCTGを用いる応用的な方法などは自費診療となる場合があります。状態によって異なるため、検査のうえでご説明します。
Q. どの方法になるかは、いつ決まりますか?
A. 事前の検査でおおよその方針を立てますが、最終的な骨の形は、歯ぐきを開いた手術中に正確に分かることもあります。その場で最適な方法を選べるよう、複数の選択肢を準備しておきます。
8. まとめ
- 再生治療には、単体・骨補填材・メンブレン(GTR)・歯ぐき移植(CTG)など複数の方法がある
- 難しい欠損ほど、方法を組み合わせてスペースを確保・安定させる
- エムドゲイン®は豚由来のタンパク質、リグロス®は遺伝子組換えで作るbFGF製剤(皮膚の傷の治療にも使われてきた成分)
- 複雑な方法が優れているのではなく、その歯に合った方法を選ぶことが大切
- 方法選びには、骨の形を立体的に確認する精密検査が欠かせない
「難しい」と言われた歯にも、組み合わせしだいで残せる道が見つかることがあります。
どの方法が向くのかは、精密に診てみないと分かりません。他院であきらめるように言われた方も、一度その歯に残された可能性を、一緒に確かめてみませんか。
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参考文献
本記事は、米国歯周病学会(AAP)・欧州歯周病連盟(EFP)のガイドライン、およびPubMedに収載された学術論文を参考に作成しています。
1. Sanz M, Herrera D, Kebschull M, et al. Treatment of stage I-III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020;47(Suppl 22):4-60. doi:10.1111/jcpe.13290
2. Kao RT, Nares S, Reynolds MA. Periodontal regeneration – intrabony defects: a systematic review from the AAP Regeneration Workshop. J Periodontol. 2015;86(2 Suppl):S77-S104. doi:10.1902/jop.2015.130685
3. Stavropoulos A, Bertl K, Spineli LM, Sculean A, Cortellini P, Tonetti M. Medium- and long-term clinical benefits of periodontal regenerative/reconstructive procedures in intrabony defects: Systematic review and network meta-analysis of randomized controlled clinical studies. J Clin Periodontol. 2021;48(3):410-430. doi:10.1111/jcpe.13409
4. Santoro G, Zucchelli G, Gherlone E. Combined Regenerative and Mucogingival Treatment of Deep Intrabony Defects Associated with Buccal Gingival Recession: Two Case Reports. Int J Periodontics Restorative Dent. 2016;36(6):849-857. doi:10.11607/prd.2764
※「リグロス」「フィブラストスプレー」は科研製薬株式会社、「エムドゲイン」はStraumann社の登録商標です。
※ 本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の推奨を行うものではありません。再生治療の適応や方法はお口の状態によって異なります。具体的なご相談は当院までお気軽にお申し付けください。
