「歯を支える骨が溶けています」
「この歯は、もう抜くしかありません」
そう言われて、目の前が真っ暗になっていませんか。
長く付き合ってきた自分の歯を失うかもしれない——それは、本当につらいことです。
でも、どうか、あきらめてしまう前に知っておいてほしいことがあります。
失われた骨を、ある程度「取り戻す」ことをめざせる治療があります。それが「歯周組織再生療法(歯周病の再生治療)」です。
私は歯周病専門医として、「他院で抜くしかないと言われた」という方を、たくさん診てきました。
そのすべての歯を残せるわけではありません。けれど、精密に診てみると、残せる道が見つかることも、確かにあります。だからこそ、あきらめてしまう前に一度、その歯に残された可能性を確かめてほしいのです。
※ 本記事は、日本歯周病学会 歯周病専門医の監修のもと、米国歯周病学会(AAP)・欧州歯周病連盟(EFP)のガイドラインを参考に作成しています。
目次
- 歯周病の再生治療ってどんな治療?
- 「もう手遅れ」と言われても、あきらめないでほしい理由
- どんな歯に向いていて、どんな歯が難しいの?
- 治療の流れ
- 成功のカギは、実はあなた自身のケア
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
1. 歯周病の再生治療ってどんな治療?
歯周病が進むと、歯を支えている骨(歯槽骨)が少しずつ溶けていきます。そして、一度失われた骨は、ふつうの歯周病治療だけでは元に戻りません。
ふつうの治療が「これ以上悪くしない」ための治療なら、再生治療は「失ったものを取り戻す」ための治療です。
植木鉢にたとえるなら、減ってしまった土(骨)を補い、ぐらついた木(歯)をもう一度しっかり支えられるようにするイメージです。
具体的には、歯ぐきを開いて中をきれいにしたうえで、骨の回復を助ける薬剤や材料を使います。よく使われるのが、次の2つです。
- リグロス®:日本で開発された、保険が使える再生のお薬(bFGFという成分)
- エムドゲイン®:世界で長く使われてきた再生材料(自費診療)
ただし正直にお伝えすると、失った骨が完全に元どおりになるとは限りません。どのくらい戻るかは、歯の状態によって変わります。
2. 「もう手遅れ」と言われても、あきらめないでほしい理由
再生治療は、特殊な実験的治療ではありません。世界の歯周病学会(AAP・EFP)のガイドラインでも認められている、根拠のある治療です。
たとえば、たくさんの研究をまとめた分析では、こんなことが分かっています。
- 再生治療をした歯は、ふつうの手術だけの歯より再生治療を行った場合、通常の歯周外科治療と比べて、歯周ポケットの改善や失われた歯周組織の回復が長期的に維持されやすいことが報告されています。(長い目で見て、歯を失う割合が低い)
- 長期的な追跡研究では重度に進んでしまった歯でも、その後のケア次第で10年以上にわたり良い状態を保てることがあるという例も報告されています
「骨が溶けた=もうおしまい」ではありません。まだ、できることがあります。
3. どんな歯に向いていて、どんな歯が難しいの?
ここは、いちばん正直にお伝えしたいところです。再生治療は、どんな歯にも同じように効く「魔法の治療」ではありません。
効果を大きく左右するのが、骨の「失われ方」です。
向いていることが多い歯 👇


- 骨がタテ方向にくぼむように失われている
- まわりに骨がまだある程度残っている
- 炎症が抑えられていて、歯みがきがしっかりできている
難しいことが多い歯 👇
- 骨がヨコに広く、平らに全体的に失われている
- 歯の支えがほとんど残っていない/大きくグラグラしている
- 歯の根が割れている
- タバコを吸っている(治りを妨げます)
だからこそ、「その歯に本当に効くのか」を、精密な検査で見極めることがとても大切です。必要に応じてCTで骨の形を立体的に確認します。「難しそう」に見えても、材料を工夫すれば残せることもあります。
4. 治療の流れ
- 検査・診断:レントゲンやCTで骨の状態を確認し、その歯に再生治療が向くかを判断します
- お口の環境を整える:まずご自身のセルフケア能力の向上(最も大事!!)歯石を取り、炎症を抑えます(再生の土台づくり)
- 再生治療(手術):歯ぐきを開いてきれいにし、再生を促す薬剤・材料を使います
- 治りを待つ:数か月から1年程度かけて組織が治癒していきます。レントゲン上の変化は、時間をかけて確認します。
- メンテナンス:回復した状態を保つため、定期的に通っていただきます
5. 成功のカギは、実はあなた自身のケア
意外に思われるかもしれませんが、再生治療の結果は、手術のうまさと同じくらい、その後の毎日のケアに左右されます。
- ていねいな歯みがき:再生した組織を守る土台です
- 禁煙:タバコは治りを大きく妨げます
- 定期的なメンテナンス:再発を防ぎ、良い状態を保ちます
手術は「ゴール」ではなく「スタート」です。私たちも、一緒に長期的に良い状態を保つことを目指しましょう。
6. よくある質問(Q&A)
Q. 再生治療をすれば、必ず骨は元どおりになりますか?
A. 完全に元どおりになることを保証する治療ではありません。大きく回復することもあれば、限られることもあり、個人差があります。
Q. 痛みや腫れはありますか?
A. 手術のため、術後に多少の痛みや腫れが出ることがありますが、多くは数日で落ち着きます。痛みに配慮しながら進めます。
Q. 保険は使えますか?
A. リグロス®を用いる再生治療は、一定の条件を満たせば健康保険が使えます。状態によって異なるため、検査のうえでご説明します。
Q. 他院で「もう無理」と言われましたが、可能性はありますか?
A. 骨の失われ方によっては、残せる道が見つかることがあります。まずは一度、精密に診てみる価値があります。
7. まとめ
- 歯周病の再生治療は、歯周病で失った骨や歯ぐきの回復をめざす治療
- AAP・EFPのガイドラインでも認められた、根拠のある治療
- 再生治療をした歯は、長期的に良好な状態を維持できる可能性があると報告されている
- ただし向く歯・難しい歯があり、見極めが何より大切
- 成功のカギは、毎日のケア・禁煙・メンテナンス
「抜くしかない」と言われても、まだあきらめないでほしいのです。
もちろん、結果として抜歯が最善のこともあります。それでも、その判断を下す前に、あなたの歯に残された可能性を、一緒に確かめさせてください。
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参考文献
本記事は、米国歯周病学会(AAP)・欧州歯周病連盟(EFP)のガイドライン、およびPubMedに収載された学術論文を参考に作成しています。
1. Sanz M, Herrera D, Kebschull M, et al. Treatment of stage I-III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020;47(Suppl 22):4-60. doi:10.1111/jcpe.13290
2. Kao RT, Nares S, Reynolds MA. Periodontal regeneration – intrabony defects: a systematic review from the AAP Regeneration Workshop. J Periodontol. 2015;86(2 Suppl):S77-S104. doi:10.1902/jop.2015.130685
3. Stavropoulos A, Bertl K, Spineli LM, Sculean A, Cortellini P, Tonetti M. Medium- and long-term clinical benefits of periodontal regenerative/reconstructive procedures in intrabony defects: Systematic review and network meta-analysis of randomized controlled clinical studies. J Clin Periodontol. 2021;48(3):410-430. doi:10.1111/jcpe.13409
※「リグロス」は科研製薬株式会社、「エムドゲイン」はStraumann社の登録商標です。
※ 本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の推奨を行うものではありません。再生治療の適応や効果はお口の状態によって異なります。具体的なご相談は当院までお気軽にお申し付けください。
