「歯ぐきから血が出る」
「歯ぐきが腫れている気がする」
「歯医者で“歯周病ですね”と言われたことがある」
そんな経験はありませんか?
歯周病は、日本の成人が歯を失う原因の上位を占める身近な病気です。それにもかかわらず、初期にはほとんど自覚症状がなく、「気づいたときには進行していた」という方が少なくありません。そのため「静かに進む病気(サイレント・ディジーズ)」とも呼ばれています。
このページは、歯周病の原因・症状・治療・予防をひととおり理解していただくための「総合ガイド」です。それぞれの詳しい内容は個別の記事でも解説していきますので、気になる部分から読み進めてみてください。
実際に当院でも、
「痛くないから大丈夫だと思っていた」
「家族に歯周病がいるので自分も心配」
「全身の健康にも関係すると聞いて気になった」
といったご相談をいただきます。
歯周病は、適切なケアによって進行を抑え、歯を守っていける病気です。歯周病専門医として大切にしているのは、ただ症状を治すことではなく、「なぜその方が歯周病になったのか」という背景を見極め、再発させない(クリーニングしやすい環境)ところまで一緒に取り組むことです。
※ 本記事は、日本歯周病学会 歯周病専門医の監修のもと、米国歯周病学会(AAP)・欧州歯周病連盟(EFP)の国際的なガイドラインを参考に作成しています。
目次
- 歯周病とはどんな病気?
- 歯周病の原因
- 歯周病の進行ステージ
- こんな症状は要注意(セルフチェック)
- 歯周病が全身に与える影響
- 歯周病の治療の流れ
- 歯周病の予防とメンテナンス
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
1. 歯周病とはどんな病気?
歯周病とは、歯ぐきや、歯を支えている骨(歯槽骨)などが、細菌の感染によって少しずつ壊されていく病気です。むし歯が「歯そのもの」の病気であるのに対し、歯周病は「歯を支える土台」の病気です。

むし歯が「家(歯)」の問題なら、歯周病は「地盤(歯ぐき・骨)」の問題です。
地盤がゆるめば、家がどんなに丈夫でも傾いてしまいます。歯周病が進むと、健康な歯であってもグラついて抜けてしまうことがあるのは、このためです。
2. 歯周病の原因
歯周病の直接の原因は、歯と歯ぐきの境目にたまる歯垢(プラーク)の中の細菌です。プラークは、うがいでは落とせないバイオフィルム(排水溝のぬめりのような膜)を作り、その中の歯周病菌が歯ぐきに炎症を起こします。

さらに、次のような要因が重なると、歯周病は進行しやすくなるとされています。




- 喫煙:歯ぐきの血流が悪くなり、進行に気づきにくくなる
- 糖尿病:歯周病と互いに影響し合う(後述)
- 歯ぎしり・食いしばり:歯を支える組織に負担がかかる
- 不規則な生活・ストレス:体の抵抗力の低下
3. 歯周病の進行ステージ

歯周病は、ある日突然進むのではなく、段階を追ってゆっくりと進行します。
現在、世界の歯科では、米国歯周病学会(AAP)と欧州歯周病連盟(EFP)が共同で定めた国際的な分類(2017年)が使われています。これは進み具合を「ステージ」、進行リスクを「グレード」で評価する仕組みです(Caton ら, 2018年)。
上の図のように、歯周病は「①健康 → ②歯肉炎 → ③軽度 → ④中等度 → ⑤重度の歯周炎」へと進んでいきます。それぞれの歯ぐき・骨の状態や症状の目安は、図をご覧ください。
段階が進むほど、歯を支える骨が失われ、症状も強くなっていきます。とくに知っておいていただきたいのが、次の点です。
歯肉炎のうちは元に戻せても、歯周炎で失われた骨は自然には戻りません。
だからこそ、「早く気づいて、早く対処すること」が、歯を守るいちばんの近道です。気になる症状があれば、お早めにご確認ください。
4. こんな症状は要注意(セルフチェック)
次の項目に心当たりがあれば、歯周病が進んでいるサインかもしれません。
- 歯磨きのときに歯ぐきから血が出る
- 歯ぐきが赤く腫れている/ぶよぶよする
- 口臭が気になる
- 朝起きたとき口の中がネバネバする
- 歯ぐきが下がって歯が長く見える
- 歯がグラつく、噛むと違和感がある
当てはまるものがあっても、過度に心配する必要はありません。まずは状態を確認することが第一歩です。
5. 歯周病が全身に与える影響
歯周病は「お口だけの問題」と思われがちですが、近年の研究では全身の健康とも深く関わっていることが分かってきています。歯周病菌や炎症の物質が、歯ぐきの血管を通じて全身に影響すると考えられています。
糖尿病との関係
歯周病と糖尿病は、互いに悪化させ合う関係にあるとされています。質の高い研究をまとめたコクラン・レビューでは、歯周病の治療によって血糖値の指標(HbA1c)が改善することが示されています(Simpson ら, 2022年)。
高血圧・心臓血管との関係
多くの研究をまとめた解析では、歯周病のある人は高血圧を併せ持ちやすいという関連が報告されています(Muñoz Aguilera ら, 2020年)。
お口の健康を守ることは、全身の健康を守ることにもつながります。
このほか、誤嚥性肺炎や早産との関連も指摘されています。歯周病のケアは、お口のためだけでなく、体全体のための取り組みでもあるのです。
6. 歯周病の治療の流れ
歯周病の治療は、原因となる細菌を減らし、炎症を抑えていくことが基本です。
欧州歯周病連盟(EFP)がまとめた国際的な治療指針(S3レベル臨床ガイドライン)では、軽度から重度まで、「段階を追って進める治療(ステップごとの治療)」が推奨されています(Sanz ら, 2020年)。当院でも、この国際基準の考え方に沿って、次のような流れで進めます。
- 検査・診断:歯周ポケットの深さや出血、レントゲンで骨の状態を確認します
- 歯みがき指導・リスク管理:毎日のセルフケアの質を高め、喫煙などのリスクにも目を向けます(治療の土台です)
- 歯石・プラークの除去:歯ぐきの中の汚れを専門的に取り除きます(スケーリングなど)
- 再評価:改善具合を確認し、必要に応じて次のステップを検討します
- 外科的な治療:重度の場合、歯ぐきの奥を清掃したり、失われた組織の回復をめざす処置を行うこともあります
- メンテナンス:良い状態を保つため、定期的なケアを継続します
どの治療が必要かは、進行度やお口全体の状態によって異なります。歯科医師とよく相談しながら進めることが推奨されます。
7. 歯周病の予防とメンテナンス
歯周病は、治療して終わりではありません。歯周病菌は時間とともに再び増えてくるため、良い状態を保ち続けるためのメンテナンスが何よりも大切です。
- 毎日のていねいなセルフケア:歯と歯ぐきの境目・歯間の清掃
- 定期的な歯科でのクリーニング:自分では落とせない汚れの除去
- 生活習慣の見直し:禁煙・バランスのよい食事など
「治療したのにまた悪くなった」を防ぐ鍵が、この継続的なケアです。
8. よくある質問(Q&A)
Q. 歯周病は治りますか?
A. 進行を止めて、良い状態を保つことは十分に可能です。失われた骨が完全に元どおりになるとは限りませんが、適切な治療とケアで歯を守っていけます。早い段階ほど回復が期待できます。
Q. 痛くないのですが、放っておいて大丈夫ですか?
A. 歯周病は痛みが出にくい病気です。痛くないからこそ進みやすいため、症状がなくても定期的な確認をおすすめします。
Q. 歯周病はうつりますか?
A. 歯周病菌はご家族など身近な人との間で伝わることがあると報告されています。ただし菌がいても必ず発症するわけではなく、家族ぐるみのケアが効果的です。
9. まとめ
- 歯周病は、歯を支える土台が壊される、自覚症状の出にくい病気
- 進行度は、AAP・EFPの国際分類(ステージ・グレード)で評価される
- 糖尿病や高血圧など全身の健康とも関わっている
- 治療は段階的に進め、その後のメンテナンスで良い状態を保つことが大切
歯周病は、こわい病気ではなく、「正しく付き合えば歯を守れる病気」です。
大切なのは、症状が軽いうちから——あるいは「まだ何ともない」うちから向き合うことです。早ければ早いほど、できることは多くなります。「痛くないけれど気になる」「家族のために予防したい」、そんな今こそが、いちばん良いタイミングです!!
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参考文献
本記事は、米国歯周病学会(AAP)・欧州歯周病連盟(EFP)のガイドライン、およびPubMed(米国国立医学図書館の文献データベース)に収載された過去10年以内のシステマティックレビューを参考に作成しています。
1. Caton JG, Armitage G, Berglundh T, et al. A new classification scheme for periodontal and peri-implant diseases and conditions – Introduction and key changes from the 1999 classification.(AAP/EFP 2017 World Workshop)J Clin Periodontol. 2018;45(Suppl 20):S1-S8. doi:10.1111/jcpe.12935
2. Sanz M, Herrera D, Kebschull M, et al. Treatment of stage I-III periodontitis—The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2020;47(Suppl 22):4-60. doi:10.1111/jcpe.13290
3. Simpson TC, Clarkson JE, Worthington HV, et al. Treatment of periodontitis for glycaemic control in people with diabetes mellitus. Cochrane Database Syst Rev. 2022;4(4):CD004714. doi:10.1002/14651858.CD004714.pub4
4. Muñoz Aguilera E, Suvan J, Buti J, et al. Periodontitis is associated with hypertension: a systematic review and meta-analysis. Cardiovasc Res. 2020;116(1):28-39. doi:10.1093/cvr/cvz201
※ 本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の推奨を行うものではありません。お口の状態には個人差がありますので、具体的なご相談はかかりつけの歯科医師までお気軽にお申し付けください。
