「歯のクリーニングって、本当に定期的に通う必要があるの?」
「一度しっかり歯石を取ってもらえば、しばらく大丈夫なのでは?」
このような疑問をお持ちの方は、とても多くいらっしゃいます。実は、ここに歯周病をコントロールするうえでの大切なポイントが隠れています。
この記事では、歯のクリーニングがなぜ「一度きり」では不十分なのか、その理由を歯周病菌の性質という観点から、歯周病専門医の視点でくわしくご説明します。さらに、あまり知られていない歯周病菌の家族間での感染についても、研究データをもとにお伝えします。
実際に当院でも、
「毎日しっかり歯を磨いているのに歯周病と言われた」
「クリーニングに通う意味があるのか分からない」
「家族にも歯周病がいるが関係あるの?」
といったご相談をいただくことがあります。
歯のクリーニングは、ただ歯をきれいにして気持ちよくなるためだけのものではありません。歯周病専門医の立場から見ると、これは「お口の中の細菌バランスを整え、歯を失わないために続けていく治療」です。当院では、なぜ通い続けることが大切なのか、その理由を一人ひとりにご納得いただけるよう、丁寧にお伝えすることを心がけています。
※ 本記事は、日本歯周病学会 歯周病専門医の監修のもと作成しています。
目次
- 歯のクリーニングとは?セルフケアとの違い
- 歯周病菌は「バイオフィルム」という砦をつくる
- なぜ定期的に必要?歯周病菌は数ヶ月で“戻ってくる”
- 意外と知られていない「歯周病菌の家族間感染」
- クリーニングに通う頻度の目安
- 毎日のセルフケアのポイント
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
1. 歯のクリーニングとは?セルフケアとの違い
歯のクリーニングとは、歯科医院で専用の器具を使い、毎日の歯磨きでは落としきれない汚れを取り除く処置のことです。専門的にはPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)などと呼ばれます。
毎日のセルフケア(歯磨き)と、歯科医院でのクリーニングは、役割が異なります。
| 毎日の歯磨き | 歯の表面のやわらかい汚れ(プラーク)を落とす日々のケア |
|---|---|
| 歯科でのクリーニング | 歯石や、歯周ポケットの中など、自分では届かない汚れを除去する専門的なケア |
特に重要なのが、歯と歯茎の境目にある「歯周ポケット」の中です。ここは歯ブラシの毛先が届きにくく、歯周病の原因菌が潜みやすい場所です。歯周病のコントロールには、この見えない部分のケアが欠かせません。
2. 歯周病菌は「バイオフィルム」という砦をつくる
歯周病菌が厄介なのは、ただお口の中に漂っているわけではない、という点です。
細菌たちは、歯の表面や歯周ポケットの中で互いに集まり、バイオフィルムと呼ばれるヌルヌルした膜を作ります。

イメージしやすい例で説明すると——
バイオフィルムは、台所の排水溝にできる「ぬめり」とよく似ています。あのぬめりは、水で流すだけではなかなか落ちず、スポンジでこすって初めて取れますよね。お口の中のバイオフィルムも同じで、うがいや薬では簡単に落とせず、物理的に取り除く必要があります。
この「こすって落とす」役割を担うのが、毎日の歯磨きと、歯科医院でのクリーニングなのです。
3. なぜ定期的に必要?歯周病菌は数ヶ月で“戻ってくる”
ここが、この記事で最もお伝えしたいポイントです。
歯科医院で歯周ポケットの中をきれいにしても、その効果は永久には続きません。取り除いた歯周病菌は、時間とともに再びポケットの中で増えてきます。これを専門的には「再定着(さいていちゃく)」と呼びます。
研究で示されている「再定着」
古くから知られた研究では、深い歯周ポケットを器具できれいにしても、その後のセルフケアが不十分だと、わずか4〜8週間ほどで、歯周病に関わる活発な細菌が再び増えてくることが報告されています(Magnusson ら, 1984年, Journal of Clinical Periodontology)。
別の研究でも、治療によって減った歯周病関連菌が、処置後しばらくすると再び増加に向かう傾向が示されています(Pedrazzoli ら, 1991年, Journal of Clinical Periodontology)。
つまり——
クリーニングは「一度やれば終わり」ではなく、細菌が増えきってしまう前に、定期的にリセットし続けることに意味があるのです。
草むしりに例えるなら、一度抜いても、根が残っていれば数ヶ月でまた生えてきます。定期的に手入れをするからこそ、きれいな状態を保てるのと同じイメージです。
4. 意外と知られていない「歯周病菌の家族間感染」
「歯周病がうつる」と聞くと、驚かれる方も多いかもしれません。しかし、歯周病の原因菌は、ご家族など身近な人との間で伝わる(感染する)ことがあると複数の研究で報告されています。
夫婦間・親子間での伝播
564名の家族を対象とした大規模な研究では、代表的な歯周病菌であるP. gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)について、夫婦間・母子間・父子間・きょうだい間で、菌の保有状況が偶然では説明できないほど一致することが示されました。これは、感染した家族との接触によって菌が伝わっている可能性を示しています(Tuite-McDonnell ら, 1997年, Journal of Clinical Microbiology)。
日本の研究(東京歯科大学)でも、14組の夫婦のうち6組で、夫と妻から遺伝子的に同一の P. gingivalis が検出され、夫婦間での伝播が示唆されています(Asano ら, 2003年, Journal of Periodontology)。
さらに別の研究では、配偶者が菌を持っている場合の夫婦間での伝播や、親から子への伝播も報告されています(Asikainen ら, 1996年, Oral Microbiology and Immunology/Ozmeriç ら, 1999年, Anaerobe)。
では、どう考えればよい?
このようにお伝えすると、不安に感じられるかもしれません。しかし、ここで大切なのは「うつるから怖い」ということではありません。
歯周病菌がお口の中にいても、すべての人が必ず歯周病になるわけではありません。発症には、その方の体質やお口の環境、生活習慣なども関わるとされています。
大切なのは、ご家族みんなでお口の健康を意識することです。スプーンの共用などが気になる場合もありますが、過度に神経質になる必要はありません。それよりも、ご家族そろって定期的にクリーニングを受け、お口全体の細菌の量を抑えていくことが、現実的で効果的な対策といえます。

当院に歯周病でお越しになる患者様の中には、ご夫婦やご家族で通ってくださる方もいらっしゃいます。お一人だけが頑張るより、ご家族で一緒に取り組むほうが、結果的にお口の環境が安定しやすいと感じています。「家族にも歯周病がいる」という方は、ぜひ一緒のケアをご検討ください。
5. クリーニングに通う頻度の目安
通う頻度は、お口の状態によって一人ひとり異なります。一般的には、歯周病菌が増えきる前のタイミングとして3〜4ヶ月に一度の定期的なクリーニングが推奨されることが多いとされています。
歯周病の状態が安定している方はもう少し間隔をあけられることもありますし、リスクが高い方はより短い間隔が望ましい場合もあります。ご自身に合った頻度については、歯科医院でご相談いただくとよいでしょう。
6. 毎日のセルフケアのポイント
定期的なクリーニングと同じくらい、毎日のセルフケアも大切です。クリーニングでリセットした良い状態を、できるだけ長く保つためのポイントをご紹介します。
- 歯と歯茎の境目を意識して磨く:歯周ポケットの入り口をやさしく清掃する
- 歯間ブラシ・フロスの活用:歯と歯の間はバイオフィルムが残りやすい部分です
- 力を入れすぎない:強すぎるブラッシングは歯茎を傷める原因にもなります

7. よくある質問(Q&A)
Q. 毎日きちんと磨いていれば、クリーニングは不要ですか?
A. セルフケアだけでは、届かない部分が残ってしまいます。
どれだけ丁寧に磨いても、歯周ポケットの中や歯石は、ご自身では除去が難しい部分です。毎日の歯磨きと専門的なクリーニングは、役割が違う「車の両輪」とお考えいただくとよいでしょう。
Q. 歯周病はうつると聞いて不安です。家族と食器を分けるべきですか?
A. 過度に神経質になる必要はありません。
歯周病菌が家族間で伝わることはありますが、菌がいても必ず発症するわけではありません。食器を完全に分けるよりも、ご家族そろってお口の環境を整えることのほうが、現実的で大切な対策とされています。
Q. クリーニングは痛いですか?
A. 状態によって感じ方は異なります。
歯茎に炎症がある場合は、多少の刺激を感じることもありますが、お痛みに配慮しながら進めることができます。気になる方は、事前にお気軽にお伝えください。
Q. 一度歯石を取れば、しばらく通わなくても大丈夫ですか?
A. 残念ながら、歯周病菌は時間とともに再び増えてきます。
本文でご説明したとおり、取り除いた細菌は数週間から数ヶ月かけて再定着します。良い状態を保つためには、定期的に通い続けることが大切です。
8. まとめ
歯のクリーニングについて、ポイントを整理します。
- 歯周病菌はバイオフィルムをつくり、うがいや薬では落とせない
- 取り除いても数週間〜数ヶ月で再定着するため、定期的なケアが必要
- 歯周病菌は家族間で伝わることがあり、家族ぐるみのケアが効果的
- セルフケアと専門的クリーニングは役割が異なる「車の両輪」
歯のクリーニングは、地味に思えるかもしれませんが、歯を生涯にわたって守るための、とても大切な治療です。歯周病専門医として、「なぜ続ける必要があるのか」をご理解いただいたうえで通っていただくことが、何よりの近道だと考えています。
「自分の歯茎の状態が気になる」
「家族で歯周病ケアを始めたい」
そのような方は、どうぞお気軽にご相談ください。一緒に、長くお口の健康を守っていきましょう。
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参考文献
本記事は、PubMed(米国国立医学図書館の文献データベース)に収載された以下の学術論文を参考に作成しています。
1. Magnusson I, Lindhe J, Yoneyama T, Liljenberg B. Recolonization of a subgingival microbiota following scaling in deep pockets. J Clin Periodontol. 1984;11(3):193-207. doi:10.1111/j.1600-051x.1984.tb01323.x
2. Pedrazzoli V, Kilian M, Karring T, Kirkegaard E. Effect of surgical and non-surgical periodontal treatment on periodontal status and subgingival microbiota. J Clin Periodontol. 1991;18(8):598-604. doi:10.1111/j.1600-051x.1991.tb00096.x
3. Tuite-McDonnell M, Griffen AL, Moeschberger ML, et al. Concordance of Porphyromonas gingivalis colonization in families. J Clin Microbiol. 1997;35(2):455-461. doi:10.1128/jcm.35.2.455-461.1997
4. Asano H, Ishihara K, Nakagawa T, Yamada S, Okuda K. Relationship between transmission of Porphyromonas gingivalis and fimA type in spouses. J Periodontol. 2003;74(9):1355-1360. doi:10.1902/jop.2003.74.9.1355
5. Asikainen S, Chen C, Slots J. Likelihood of transmitting Actinobacillus actinomycetemcomitans and Porphyromonas gingivalis in families with periodontitis. Oral Microbiol Immunol. 1996;11(6):387-394. doi:10.1111/j.1399-302x.1996.tb00200.x
6. Ozmeriç N, Preus HR, Olsen I. Intrafamilial transmission of black-pigmented, putative periodontal pathogens. Anaerobe. 1999;5(6):571-577. doi:10.1006/anae.1999.0309
※ 本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の推奨を行うものではありません。お口の状態には個人差がありますので、具体的なご相談はかかりつけの歯科医師までお気軽にお申し付けください。
